原因・対策・受診の目安をわかりやすく解説

「胸のあたりが焼けるように痛い」「酸っぱいげっぷが込み上げてくる」
こうした症状でお悩みの方は多く、胸やけは日常生活の質を大きく下げる不快な症状です。胸やけは一時的なこともありますが、「昨日は少し食べ過ぎたからかな?」「市販薬を飲めば治るだろう!」と様子を見ているうちに、症状が慢性化してしまう方が多くいます。
胸やけは、主に胃酸が食道へ逆流することで、食道の粘膜が刺激されたり炎症を起こしたりして発生します。これを放置すると、生活の質(QOL)が下がるだけでなく、実は思わぬ病気が隠れている。なんて事もあるため早めに専門的な診断・治療が大切です。
この記事では、胸やけが起こる原因や考えられる病気、そして自宅でできる食事・生活習慣でできる改善法、受診のタイミングについて丁寧に解説します。
こんな症状はありますか?
まずは、ご自身の症状をチェックしてみましょう。以下のような症状がある場合、胃や食道でトラブルが起きている可能性があります。
【胸やけセルフチェック】
- みぞおちから胸にかけて、焼けるような熱い感じがする
- 酸っぱい液体が喉まで上がってくる(呑酸:どんさん)
- ゲップが頻繁に出る
- 喉に何かが詰まっているような違和感がある
- 食後に咳が出たり、声が枯れたりする
- 胃もたれや吐き気が続く
これらは、典型的な「胃食道逆流症(GERD)」などのサインかもしれません。症状は一時的に薬で改善することもありますが、非常に再発しやすいのが特徴です。
しっかりと原因を突き止め、根本から治療することが大切です。
胸やけの5つの主な原因
胸やけの原因は一つではありません。生活習慣、加齢、ストレスなど、様々な要因が重なって引き起こされます。ご自身に当てはまるものがないか確認してみましょう。
① 食生活の乱れによる「胃酸過多」
私たちが食事をすると、消化のために胃酸が分泌されます。しかし、胃に大きな負担がかかる食事を続けると、胃酸が必要以上に分泌されてしまい、食道へ逆流しやすくなります。
特に以下の食品の摂りすぎには注意が必要です。
- 脂っこい食事(揚げ物、肉類など):消化に時間がかかり、胃酸の分泌量が増えます。
- アルコール・カフェイン:胃酸の分泌を促進させる作用があります。
- 刺激の強い香辛料:唐辛子などは胃の粘膜を刺激します。
- 喫煙:タバコは胃酸の分泌を促すだけでなく、胃の血流を悪くする危険因子です。
更に早食い、暴飲暴食は胃酸の分泌を増やし、逆流を起こしやすくなります。
無理なダイエットや食事時間の不規則さも、胃の働きを乱す原因となります。
② 加齢・肥満による「筋力低下」
食道と胃のつなぎ目には、「下部食道括約筋(かぶしょくどうかつやくきん)」という筋肉があります。この筋肉は、普段はきつく締まっていて、胃の内容物が食道へ逆流するのを防ぐ「フタ」の役割をしています。
しかし、加齢によって全身の筋肉が衰えるのと同様に、この括約筋の力も弱まります。すると、少しお腹に力が入っただけでもフタが緩み、逆流が起きてしまうのです。
また、胃や食道がうねうねと動いて食べ物を運ぶ「蠕動(ぜんどう)運動」も筋肉の働きです。この動きが弱まると、逆流してきた胃酸を素早く胃に戻すことができなくなり、食道が長時間酸にさらされて炎症を起こしやすくなります。
③ 「姿勢」による物理的な逆流
「食後すぐに横になると牛になる」という昔からの言い伝えがありますが、医学的にも食後すぐに横になるのは良くありません。
- 前かがみの姿勢
- 猫背
- 食後すぐに寝転ぶ
これらの姿勢は、物理的に胃を圧迫したり、食道と胃の位置関係を悪くしたりするため、重力によって胃酸が逆流しやすくなります。特に就寝直前の食事は、胃酸分泌がピークの状態で横になることになるため、最も症状が出やすいパターンです。
④ 「ストレス」による自律神経の乱れ
「胃は心の鏡」と言われるほど、胃腸の働きはメンタルと深く関係しています。胃腸をコントロールしているのは自律神経です。
過度なストレスがかかると自律神経のバランスが崩れ、以下のような悪循環が生まれます。
- 胃酸が必要以上に分泌される
- 胃腸の動き(蠕動運動)が低下する
- 胃の粘膜を守る機能が弱まる
これにより、ちょっとした刺激でも胸やけを感じやすくなってしまいます。
⑤ 「ピロリ菌」感染
ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)をご存じでしょうか?
ピロリ菌に感染していると、胃や十二指腸に慢性的な炎症や潰瘍が生じやすくなります。これにより、胸やけ、胃もたれ、吐き気といった症状が引き起こされます。
ピロリ菌が陽性の場合は、 除菌治療が胸やけ改善と再発予防に非常に有効 です。
特に注意が必要なのは、ピロリ菌による炎症が長期間続くと「萎縮性胃炎」へと進行し、将来的に胃がんのリスクが高まるという点です。
胸やけを引き起こす主な疾患
● 胃食道逆流症(GERD)・逆流性食道炎
現在、胸やけの原因として最も多いのがこれになります。
胃液が食道へ逆流することで起こります。胃液には強力な酸(塩酸)とタンパク質分解酵素が含まれています。胃の壁は特殊な粘膜で守られていますが、食道の壁にはそのような防御機能がありません。そのため、逆流してきた胃酸によって食道が火傷のような状態になり、ただれや潰瘍(逆流性食道炎)ができてしまいます。
昔は高齢者に多い病気でしたが、最近では食生活の欧米化や肥満の増加に伴い、若い世代でも急増しています。
● 慢性胃炎
胃の粘膜で炎症が慢性的に続いている状態です。多くがピロリ菌感染によるものですが、鎮痛剤(ロキソニンなどのNSAIDs)の長期服用によって引き起こされることもあります。
胃痛、胃もたれ、胸やけが起こるほか、自覚症状が少ない場合もあります。
慢性胃炎が進行すると 萎縮性胃炎 → 胃がんリスク上昇となるため早めの治療が大切です。
● 胃潰瘍・十二指腸潰瘍
胃や十二指腸の粘膜が深く傷つく病気です。
主な原因:
- ピロリ菌感染
- NSAIDs(痛み止め)などの薬
- ストレス
胸やけの他、みぞおちの痛みが特徴的です。
胃潰瘍は「食後」、十二指腸潰瘍は「空腹時」に痛むことが多い傾向があります。
これらは悪化すると、出血(吐血や下血)したり、胃に穴が開いたり(穿孔)する危険な状態になることもあります。
今日からできる!胸やけ対策|生活習慣がポイント
もし病院で検査をして「明らかな病変はない」と言われた場合でも、機能的な問題(機能性ディスペプシアなど)や生活習慣が原因で胸やけが起きていることがあります。
薬による治療と並行して、日々の生活を見直すことが再発予防の鍵となります。
●食事のポイント
- よく噛んで食べる
- 決まった時間にバランスよく食べる
- 暴飲暴食を避ける(腹八分目を心がける)
- 食後30分は激しい運動・入浴を避ける
- 寝るのは 食後2時間以上あけてから
- 夜食は控える
- アルコール・喫煙を減らす
これらを心がける事で胃の負担を減らし、胸やけ予防につながります。
●生活のポイント
- 食後30分〜1時間は、激しい運動や入浴を避け、座って安静にする
- 腹圧を上げない:ベルトでお腹をきつく締め付けたり、前かがみの姿勢を長時間続けたりするのは避けましょう。
- 肥満の解消:内臓脂肪が増えると胃が圧迫されます。肥満気味の方は、少しずつ減量することで劇的に症状が改善することがあります。
- 左側を下にして寝る:胃の形状上、身体の左側を下にして寝ると、構造的に逆流が起きにくくなると言われています。
●ピロリ菌の除菌
胸やけや胃の不調を繰り返す方には、ピロリ菌検査を強くお勧めしています。
ピロリ菌は、一度感染すると自然に消えることはほとんどありません。感染していても強い症状が出ない方もいますが、知らず知らずのうちに胃の炎症は進行します。
もし陽性であった場合、「除菌治療」を行うことで以下のメリットがあります。
- 慢性胃炎や潰瘍の再発を効果的に予防できる
- 胸やけなどの不快な症状が改善する
- 将来的な胃がんのリスクを低減できる
除菌は、1週間お薬を飲むだけで完了するケースがほとんどです。「もしかして?」と思ったら、早めに消化器内科で相談してください。
胸やけが続く場合は消化器内科へ
胸やけは一時的なこともありますが、
1週間以上続く、繰り返す、悪化する場合は受診がおすすめです。
特に以下の症状がある場合は早めの診察を受けましょう。
- 食事がしみる、飲み込みにくい
- みぞおちの痛みが強い
- 黒色便や貧血
- 体重減少
- 40歳以上で胸やけが増えてきた
原因を明確にし、適切な治療を受けることで症状は改善しやすくなります。
生活習慣を見直し、再発を防ぐことも大切です。
まとめ|胸やけは「治る」「予防できる」症状です
胸やけは胃酸の逆流や胃の病気が原因で起こります。
生活習慣の改善や適切な治療で、症状はしっかり改善可能です。
「最近胸がムカムカする」「酸っぱいげっぷが続く」
「いつものことだから」と市販薬を飲んで一時的に症状を抑えることはできても、根本的な解決にはなりません。長い間放置していると、食道の炎症が慢性化し、食道がんのリスクになることさえあります(バレット食道)。
「薬を飲んでもすぐぶり返す」
「喉の違和感が治らない」
このような場合は、早めに専門の医療機関を受診してください。
内視鏡検査(胃カメラ)などで胃や食道の状態を直接確認し、ピロリ菌の有無や粘膜の状態に合わせた適切な治療を受けることが、完治への最短ルートだと思います。
毎日の食事を美味しく楽しみ、快適な生活を取り戻すために。
胸やけの症状がある方は、ぜひ一度、お近くの病院・クリニックの消化器内科にご相談してみてください。

