検査と除菌治療について解説
近年「ピロリ菌」という言葉を耳にする機会が増えてきました。ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)は、胃の中に生息する細菌です。強い酸性環境である胃の中でも、ウレアーゼという酵素を使ってアンモニアを作り出し、自らを守りながら生き延びています。実は、日本人の多くがピロリ菌に感染していると言われています。感染してもすぐに症状が出るわけではありませんが、長期間の感染が続くと胃潰瘍や十二指腸潰瘍、さらには胃がんのリスクを高めることが分かっています。
胃がんに関しては
- ピロリ菌が存在するだけで 約9倍!
- さらに萎縮性胃炎を伴うと 約18倍!!
- さらに高度の萎縮性胃炎があると 約70倍!!!
と非常に大きなリスク上昇につながるとされています。
そのため、積極的にピロリ菌の検査と除菌治療を行うことをおすすめします。
本記事では、ピロリ菌の特徴から検査方法・除菌治療・保険適用の仕組み、そして除菌後の注意点について詳しくご紹介します。
ピロリ菌の感染経路は?
ピロリ菌は一度感染すると長期間胃の中にとどまり続けます。
では、どのようにして感染するのでしょうか?
1. 経口感染(口から口への感染)
もっとも一般的と考えられている経路です。
- 親から子への食べ物の口移し
- 箸やスプーンの共用
こうした行為で唾液を介して感染する可能性があります。
特に免疫が未発達な幼少期に感染しやすいとされています。
2. 水や食べ物を介した感染
上下水道が未整備だった時代には、井戸水や川の水を通じて感染するケースが多く報告。
現在の日本では減少していますが、発展途上国では依然として重要な感染ルートです。
日本における特徴
- 高齢世代は感染率が高い
60代以上では感染率が50%を超えるともいわれています。 - 若年層は低下傾向
衛生環境が改善されたことで、若い世代での感染は減少しています。
感染予防のポイント
- 子どもへの口移しを避ける
- 食器の共用を減らす
- 井戸水は煮沸してから使用する
ピロリ菌の検査方法
ピロリ菌感染の有無を調べる方法は大きく2種類に分けられます。
- 胃カメラ検査を伴う方法
- 胃カメラ検査を使わない方法
それぞれの特徴を見ていきましょう。
胃カメラ検査を伴う方法
- 迅速ウレアーゼ検査
胃カメラで採取した組織を特殊な反応液に入れ、ピロリ菌が持つ「ウレアーゼ活性」により色が変化することで感染を判定します。
短時間で結果が出ますが、除菌後の判定には不向きです。 - 鏡検法
採取した組織を顕微鏡で観察し、ピロリ菌を直接確認する方法です。
ただし診断精度はやや低めです。 - 培養法
胃カメラで採取した組織を培養して調べます。
結果が出るまでに1週間ほどかかりますが、菌の詳細な解析が可能です。
胃カメラ検査を伴わない方法
- 尿素呼気試験
専用の薬を飲み、その前後で呼気を採取して二酸化炭素の変化を調べます。
身体への負担が少なく、すぐに検査が出来る環境であれば30分程度で結果が出ます。
除菌治療後の判定によく用いられます。
※正確な検査を行うためには、検査4時間以内に食事をしていないこと、検査2時間以内に飲水をしていないことが条件となります。 - 血中抗体検査
採血で抗ピロリ菌抗体を調べます。
内服薬や食事の影響を受けませんが、除菌後は抗体価が下がるまで1年以上かかるため除菌治療後の判定には不向きです。 - 尿中抗体検査
食事などには影響されず、採尿だけで行うことができるため、健診や人間ドックでのスクリーニングに使われます。 - 便中抗原検査
便に含まれるピロリ菌抗原を調べる方法です。
事前の食事制限もなく、小児にも実施可能で、除菌判定にも有効です。
検査方法 | 特徴 | 除菌判定に使えるか |
---|---|---|
尿素呼気試験 | 精度が高い、飲食条件あり | ○ |
血中抗体検査 | 採血のみで簡単 | ✕ |
尿中抗体検査 | 採尿のみで健診向き | ✕ |
便中抗原検査 | 小児も可能、信頼性高い | ○ |
胃カメラ+迅速ウレアーゼ | 短時間で判定可能 | ✕ |
胃カメラ+鏡検法 | 診断精度がやや低い | ✕ |
胃カメラ+培養法 | 時間かかるが菌を確認できる | ✕ |
保険適用と自費診療の違い
ピロリ菌検査や除菌治療を保険で受ける場合は胃カメラが必須です。
胃カメラを受けずに血液や尿、便などの検査だけを希望する場合は自費診療になります。
検査の保険適用
以前は、胃潰瘍や十二指腸潰瘍がある方に限って保険適用でしたが、現在は胃カメラで慢性胃炎と診断された場合も保険適用が可能になりました。
さらに、検査で陽性が確認されれば除菌治療も保険適用になります。
※ただし、胃カメラを受けずに検査を希望する場合は自費診療となる点に注意が必要です。
また、人間ドックなどで半年以内に胃カメラを受けて慢性胃炎と診断されていれば、その結果をもとにピロリ菌検査・除菌治療を保険で受けることができます。
除菌治療の保険適用
ピロリ菌の除菌治療は、2回まで保険適用されます。
- 1回目の除菌成功率:70~80%
- 2回目まで含めると:97~98%
3回目以降も治療は可能ですが、保険適用外(自費)となります。
さらに、保険診療で使える薬は限られています。アレルギーなどで別の薬を使う場合も、自費診療となります。
保険適用での除菌治療に使える抗生剤
・アモキシシリン(ペニシリン系抗生剤)
・クラリスロマイシン(マクロライド系抗生剤)
ピロリ菌除菌の治療方法
除菌治療は、3種類のお薬を1週間服用する方法で行います。
通常は胃酸を抑える薬と2種類の抗生物質を組み合わせ、9割近い成功率があります。
ただし耐性菌の影響で失敗することもあり、その場合は薬を変えて再度治療します。
除菌後の注意点
ピロリ菌を除菌したからといって、胃がんのリスクがゼロになるわけではありません。
特に以下の方は定期的な胃カメラによる経過観察が推奨されています。
- 高齢の方
- 胃がんの既往がある方
- ご家族に胃がんの方がいる場合
- 除菌前に強い萎縮性胃炎や腸上皮化生があった方
除菌治療は胃がんの発症を大きく抑える効果が期待できますが、完全にリスクをなくすものではありません。定期的な検診を受けることで、早期発見・早期治療につながります。
まとめ
- ピロリ菌感染は胃潰瘍や胃がんの大きなリスク
- 感染経路は親から子への口移しによる幼児期の経口感染や水や食べ物からが多い
- 検査方法は複数あり、胃カメラを行った場合は保険適用で受けられる
- 除菌治療は2回まで保険適用で受けられ、成功率も高い治療法
- 除菌後もリスクはゼロにはならない為定期的な胃カメラ検査が必要
ピロリ菌は日本人に多くみられ、胃がんや胃潰瘍の大きなリスク要因となります。
検査方法は多様で、負担の少ない呼気試験や尿・便検査もありますが、保険診療を希望する場合は胃カメラが必須です。
「ピロリ菌が気になる」「検査や治療を受けたい」と感じたら、ぜひ医療機関にご相談ください。